白馬エリアのスキー場に昨晩からの積雪は無く、まさにグルーミングイーターには最高の条件がそろった今日、コルチナのわらび平ゲレンデからアクセスし、L6横の検定バーンを軽く1本流してウォーミングアップを終え、L2-L4を乗り継いでコルチナ最頂部を目指す。
平日でもパウダーデーならL2運行と同時に間違いなく50人以上が並んでノートラックにしのぎを削ろうかという午前8時50分。降雪の無い本日にL2を乗り継いでL4に辿り着いた自分の前には10名足らずの先客が並び、9時ちょうどの運航開始を待っていた。
見れば流石にファットスキーやパウダーボードのお客はおらず、ごく普通のオールラウンドモデルのフリースタイルボードやアルペンスキーを履いた普通のお客さん方だ。
「厄介だな。」
並んでいるほぼすべてのお客が、板平Cを目指しているのは間違いなかった。
見ると一番先頭には、先ほどウォーミングアップで1本流した検定バーンを、ショボいドリフトをかましながらゆるゆると降りてきた中年ボーダーのカッップルが、なにやら板平Cを指さしながらくっちゃべっている。
2組目でリフトを待つのはやはりスノーボーダーだが、こちらは1組目ほど気合が入っているわけでもなくただカップルでゲレンデ内観光というノリか。
3組目は同じくゲレンデ内観光的な小学生とおぼしき男の子とそのお父さん。やはり並ぶのが好きな日本人の代表格を、4番目の若い男子のスキーヤーペアが務めている。
しかし今日一番気にかかったのは、ヲレの行く手を阻むかのように一人他と違った雰囲気を醸し出している、おそらく自分とそう年の違わないオサーンだ。見るからにクールでで板平Cを目指している素振りは全く見せずも、しかし足元のATOMICのデモモデルカービングスキーが腕に覚えのあるそれを克明に物語っている。
これら状況を一瞬で判断しての、さきほどの「厄介だな」だ。
列に並んでいる1,2組目のスノーボーダーは大したことない。4名中ステップインバインディングを使用している輩はおらず、おそらくフィッティングゾーンでモソモソとやっている間に簡単にパスできることは想像できる。3,4組目の観光客もリフトを降りた途端に広がる壮大な景観に目を獲られ、記念撮影なんぞというどうでもいいことに終始するだろう。万が一その景観に見とれることなく板平C方面に進んだとしても、あのタイトな大斜面を前に、即座にそこに足を踏み入れる腕前だとは思えない。まずは先陣を切る勇者の後姿を見届け、恐る恐るその斜面に挑みかかるに違いないと読んだ。
やはりヲレ的ダークホースはこのオサーンスキーヤーで、どうにかこのオサーンよりも先に板平Cにたどり着いてドロップインを果たして、そのどこよりも素晴らしく硬いハードパックのグルーミングバーンに、誰よりも深く鋭いファーストトラックを刻まなければならないのだ!
9時ちょうど、いつも通り場内アナウンスが流れてL4営業運転が開始されると、先頭のヘタれ中年カプールから次々とリフトに乗り、頂上を目指し登っていく。ヲレも当然6番目の搬器に一人で乗り込むと、リラックスして降り場へと運ばれるのを待った。ここまで来て慌てても仕方がない。もうあとは落ち着いて1~4番目の搬器に乗った奴らをスルーし、残ったこの目の前のスキーヤーを何処でパスすればよいかは、滑り始めてから考えよう。
と覚悟は決めたものの、あとは自分として出来る準備を最大限やるのみ。まずはスキーヤーから遅れを取らないように、搬器の上で右足のブーツソールについた雪をバインディングを使って念入りに落とし、それをまた手で触って確認した。
これでよし。降り場でバランスを崩して足をつかない限り、最小限のタイムロスで導入路へと進むことができるはずだ。
1組目が降り場へ到着したころを見計らって、緩めていたG-styleの第1、第2バックルをいつもよりも1ノッチきつめに締め上げる。左足はなかなかインナーが合わずにつま先に若干の痛みが出るが今日はとにかく我慢しよう。フォワードアジャストは最前に固定されているので、あとは利き足をバランスを取りながら片足で滑りながらバインディングに固定するだけだ。
いよいよ降り場が近づき、先客たちの行動の全容が明らかになる時が来た。左を見ると予想通り、1組目の中年ボーダーカプールたちは導入路に近い場所を陣取り腰を下ろしてバインディングにブーツを嵌めている。リフト番のにぃちゃんに軽く会釈して挨拶をし、片足滑走で左へと舵を切り前へと進みながら他を見ると、2組目、3組目もやはり予想した通りくっちゃべりながらビューポイントで景観を見ようとゆるゆると歩いているところで、4組目のやつらは事もあろうかそこにおいてある灰皿の近くに歩み寄り、今まさに胸ポケットからタバコでも出そうかというところだ。
ここまで予想通りで胸をなでおろしつつもそのダークホースがどうしているかと目をやると、なんともうすでに導入路を下りスカイビューゲレンデとの分岐を板平C方面へと折り返しているところだった。
まずい。
焦りつつも右足は準備した通り雪の結着もなくすんなりバインディングに収まり、トゥベイルもカチッと音を立てて固定に成功した。そのままの勢いを保ちつつ、まだ腰を上げることができずにいる1組目のヘタれカプールに一瞥をカマして導入路へと入り、先ほど折り返し地点で視界から消えたスキーヤーを追いかける。
折り返し地点を過ぎて広がる視界の先を見ると、やはりかなり前を行くスキーヤーは稗田山C1入口をパスしてそのまま林間コースを板平尾根方面へと進んでいく。
その様子を流し見つつもなんとかトップスピードで追いつくべく、DonekGSボードのエッジを立てることなく極力ベタで乗り、滑走スピードを上げた。
が、稗田山C1入口を過ぎてもう一度スキーヤーが視界に入った時点で、もうすでに追いつくことができる距離と相対スピードではないことを悟った。
しかし今ここで諦めることは決してできない。僅かなチャンスをものにしてファーストトラックを刻む。今日ここに来た最大目標を達成しなければ、それこそ自分にとってのスノーボードの意味すら薄らいでしまうのだ。
板平に向かう林間をクラウチングこそ組まないが最速で向かい、最後の右コーナーを曲がろうかというところで、前のスキーヤーが板平C入口の平坦部にたどり着いたのを目視。ここでやつが速度を落とし一息ついてくれることを願いながら、尚且つ背後からの後続者の気配を悟られないよう、少しきつめのこのカーブをボードをずらさずにカービングで抜け板平Cに接近した。
スキーヤーは板平Cにたどり着いたところでスキーのトップを右回りに180度回し、予想通り後続を確認した。
が、もはや時すでに遅かった。振り返りざまに高速でCに接近するヲレが視界に入るやそのゴーグルの中に驚いた表情を浮かべた。出たとこ勝負の中にも緻密に練り上げたヲレの作戦に、勝利の狼煙が高々と上がった。
あまりのとっさの出来事にまるで素人スキーヤーの移動術のような無様さで、慌てて板平Cにドロップしようと表情のスキーヤーに軽く流し目を送り、少しあごを引いてこれから挑む斜面を視界に捉えつつ、勝ち誇った喜びを「wha!」とシャウトしつつ、そのスピードを保ったまま板平Cへとドロップイン!まずフロントから入り、バックサイドをねじ伏せる!
最高だ!このグルーミングバーン!
この締まり具合!しかも
誰よりも早くここにドロップできたことで今日のミッションの99%は達成できた。あとは残り1%、自分の意志をボードに反映させて、ターンを終えた時のその1ターンが、斜面を滑り終えたときのその1本が、さっきまでのそれらよりもより素晴らしいものであると感じることができるように、ほんの瞬間も無駄にすることなく精神を集中させていく。予想以上に素晴らしく硬いグルーミングで仕上がった31度の斜面を最小のターン弧で深く鋭いトラックを刻み続け、L4乗り場までの1サイクルをかつてない速さで駆け抜けた!
逝ったな。完全に逝った。結婚した翌年に本格的にスノーボードと出会って今日まで、途中何年かは全くボードに乗らない年もあったが、それらを乗り越えて今日、ここに自分が存在する意義のすべてがここにある。
もう女房いらネェ。この締まり具合があればそれで由だぜ!
あーでもこんな日はシーズンに10日もあるかないかだから、デカいこと言わずやっぱ女房には逆らわないほうがいいな┐(´д`)┌
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